V 目から鱗の決算書(チェックポイント編)
2.与信管理
@粗利益(売上総利益)と貸倒損失
売価と原価の差額のことを粗利益といいます。
(売上総利益は、この粗利益の一定期間の合計額です。)
様式編の損益計算書によりますと、1年間の売上総利益は10,200円となっていますが、こ
こでは、得意先ごとにいくらの粗利益が計上されているかを見てみましょう。
<乙社売上による粗利益>
(売価120円−原価100円)×販売40個×12ヶ月=9,600円
<丙社売上による粗利益>
(売価110円−原価100円)×販売10個×6ヶ月=600円
明らかに、乙社売上による粗利益が大半を占めています。
しかし、残念ながら、今期は、丙社の自己破産により、大きな貸倒損失が発生しました。
わずか600円の粗利益を獲得するために、5,500円の貸倒損失を計上しなければならなく
なったのです。
これにより、丙社売上による粗利益600円だけでなく、乙社売上による粗利益9,600円の
うち50%を超える4,900円の粗利益が吹き飛んでしまったのと同じ状態となりました。
その結果、当期は2,000円の営業損失となったのです。
これだけ傷が大きくなった原因としては、
●支払サイトが長いことにより、売上債権が膨らんでしまったこと。
●粗利益率の低い事業ほど貸倒損失による影響が大きい。
(今回の場合、貸倒損失は、丙社売上による粗利益の55か月分)
などが考えられますが、反省すべきなのは、貸倒のリスクを減少させる仕組が社内で整備
されていなかったという点です。
つまり、与信管理がなされていなかったことが最大の問題点なのです。
A取引開始時の与信管理
取引開始時の与信管理としては、相手の状況を把握することに尽きると思います。
具体的な手法の紹介は別の機会に譲ることとして、ここでは今回の反省点を列挙します。
●丙社の状況についてどれだけの調査をしたか?
●丙社との取引は今回が初めてなのに、手形を代金とすることは拒否すべきでは
なかったか?
●支払サイトの長さは、同業他社の条件と比べて不適当ではなかったか?
●支払条件について、丙社と交渉の余地はなかったか?
B取引開始後の与信管理
取引開始後の与信管理としては、継続的な情報収集だけではなく、営業担当者が相手先
の発する小さなシグナルに気づき、それを報告させ、分析する仕組を整備することが最も
重要かと思います。
これについても、具体的な手法の紹介は別の機会に譲ることとして、ここでは今回の反省
点を列挙します。
●訪問するたびに違う人が出てくるのは、退職者が多いため、人材の入れ替わりが
激しいからではないのか?
●もしそうなら、なぜ退職者が多いのか?給与の遅配などはないか?
社長に対する悪口を言っていなかったか?
●ディスカウントストアで自社商品である商品Aの陳列状況・販売状況を確認したか?
●同業者などから変な「うわさ」を聞かなかったか?
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